モータースポーツ > Honda Racing Gallery > その他 > Honda NSX GT2
翌95年、Hondaは前年と同じ3台体制としながらマシンの仕様をすべて変える、Honda流“走る実験室”の姿勢で臨んでいた。GT1クラスにエンジン縦置きのターボ仕様とNA仕様を各1台、GT2クラスに前年モデルの発展型を1台という割り振りだが、振り返れば、2009年までに登場したコンペティションNSXの基本形が、この段階ですべて揃っていたことになる。
この年のル・マンは、大挙出場したマクラーレンF1 GTR勢が降り続く雨のなかでトップ争いを繰り広げ、関谷正徳の59号車が総合優勝したことで、我々日本人には印象深いレースだった。一方、可能性を求めてGT1クラスに挑戦した2台のNSXは、ターボ車がクラッチトラブルで戦列を離れ、NA車がクラッシュの修復作業で周回数不足となり完走を果たせなかったが、GT2クラスのチーム国光NSXが、クラス優勝という結果を生んでいた。
前年と同じく高橋国光/土屋圭市/飯田章でチームを編成。日本のノバ・エンジニアリングのハンドリングで、94年仕様の強化対策モデルを使ったが、生産車のメカニズム、基本骨格をベースとする点は同じだった。市販NSXの延長線上で作られた仕様であっただけに、クラス優勝は意義深いものだ。
「レースの大半はウエットコンディションで、NSXがもつコントロール性の良さに助けられた。低μ路面でもラインの自由度があり、ブレーキングから旋回の間に、GT1の車両をかわすこともできた。こうした間口の広さ、反応の良さは、他のGTカーには見られなかった」とドライブした飯田章が当時を振り返って語る。「このクルマはJGTCのNSXと違い、市販車ベースという表現がピッタリの仕様だった。それだけに基本の動き方や全体のバランスなどは、市販車と同じ感覚といっても良かったね」と量産車が持つバランスの良さも指摘した。市販NSXのハンドリングについては、リヤサスペンションの問題も含め好みが分かれるところだが、重量バランスの良さとオーバーハング重量の少なさは、横置きミッドシップを採る基本設計の特徴が活かされた部分だ。 相手は3.6リッターターボのポルシェ911GT2と7リッターのキャラウェイ・コルベット。“柔よく剛を制す”はいかにも日本的な勝ち方で、生産車の素性が問われたという意味ではル・マンの原点に忠実な1台だったと言えるだろう。