モータースポーツ > Honda Racing Gallery > F1 第二期 > McLaren Honda MP4/6
セナの不満をよそに、MP4/6は開幕4連勝を挙げる(当時の新記録)。しかしセナはマシンへの不満をぶちまけ、ウイリアムズ・ルノーが今後脅威の存在になることを訴え続けた。開幕4戦を終えた時点で1位セナの40点に対し、2位フェラーリのプロストが11点という時期にである。しかし開幕直後のウイリアムズは信頼性不足でリタイアを繰り返していただけに、誰もセナの言葉を真に受けなかった。だが事態はモナコGPを境に急転する。セナの予言どおり、ウイリアムズがついに目覚めたのだ。
第5戦カナダGPから第9戦ドイツGPまで、セナは優勝はおろか指定席であったポールポジションすら獲れない状況に陥った。夏を迎える頃にはウイリアムズに太刀打ちできる力がMP4/6にはもうなかった。グリップ不足で走行性能に安定を欠き、セナだけでなくベルガーもマシンを路面に押さえつけるだけで精一杯という有り様だった。エンジンのパワー不足も続いており、セナは日本のテレビカメラを見つけてはHondaへ向けて『もっとパワーを!』と訴え続けたのだった。
ドイツGP直後のテストに、マクラーレンはチーム初のセミオートマ搭載車をセナのために用意する(それも2種類)。セナは「セミオートマはドライビングを驚くほど容易にしてくれる。一度使ったらもうマニュアルには戻りたくない」と絶賛。1週間後のハンガリーGPには、すでに実戦投入しているフェラーリやウイリアムズとは異なる圧搾空気式のセミオートマを実戦テストも兼ねて持ち込むが、金曜のフリー走行でスピンを喫したことで従来のマニュアルに戻してしまう。これ以後、MP4/6の実戦車にセミオートマが搭載されることはなかった。しかし連敗中だったマクラーレンの流れが好転し始めたのが、そのハンガリーGPからだった。Hondaの創始者、本田宗一郎の逝去直後でもあり、弔い合戦となったこのレースにHondaは新型エンジンを投入。それに合わせてシェルも特殊燃料を開発した。マクラーレンも軽量シャシーを投入した。結果的にハンガリー、ベルギーと連勝し、マンセルとウイリアムズに傾きかけた流れをギリギリで食い止めたのだ。
イタリア、ポルトガル、スペインとまたウイリアムズ勢に巻き返されるも、ヨーロッパラウンド初期のような完敗という内容ではなかった。さらにマクラーレンの技術部門はシャシーへメスを入れる。日本GP直前にはノーズの先端を延ばした新型シャシーを投入。これによって空力性能は飛躍的に向上し、鈴鹿ではマクラーレンが圧勝。セナとベルガーは完全にレースを支配し、セナが3度目の戴冠を決めた。しかし、最強の名を欲しいままにしていたMP4シリーズの魔法はもう終わりを迎えていた。最終戦オーストラリア、マクラーレンは豪雨で打ち切りとなった史上最短レースを1-3フィニッシュで飾り、4年連続のダブルタイトルを決める。だが、結果的にこのレースで走ることはなかったが、ウイリアムズがTカーとして『アクティブサスペンション』搭載車をスタンバイさせていたことを触れないわけにはいかない。ターボ全盛期のようにパワーだけで勝てる時代は過去の遺物となり、シャシーとエンジンが互いの利点を生み出す『トータルパッケージ』の時代がもう目前まで来ていたのだ。80年代後半から90年代序盤にかけ、一時代を築いたマクラーレンはこの翌年にHondaを失い、2年後にはセナもチームを去って、49戦未勝利という長い冬の時代を迎えることになる。セナは92年の契約をマクラーレンと更新した際にこんな言葉を残している。「僕は日本人を大変尊敬している。彼らの暗黙の感情を理解している」と、Hondaの存在が契約更新の大きな鍵を握っていたことを肯定した。セナの3度の戴冠はすべてがHondaのエンジンによるもので、それを決めた場所もすべて鈴鹿だった。
型番 | McLaren Honda MP4/6 |
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デザイナー | ニール・オートレイ |
車体構造 | 高モジュールカーボンファイバー/ハニカムモノコック |
全長×全幅×全高 | 4496mm×2120mm×965mm |
ホイールベース | 2972mm |
トレッド(前/後) | 1824/1669mm |
フロントサスペンション | ダブルウイッシュボーン、プッシュロッド(縦置きコイルスプリング)/ダンパー |
リヤサスペンション | ダブルウイッシュボーン、プッシュロッド(垂直置きコイルスプリング)/ダンパー |
ホイール(前/後) | 13×12in/13×16.3in |
ブレーキ | ブレンボ/カーボンインダストリーズ |
トランスミッション | マクラーレン製横置き6速 |
車体重量 | 505kg |
型式 | RA121E |
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形式 | 水冷60度V型12気筒 |
排気量 | 3497cc |
ボア×ストローク | 86.5mm×49.6mm |
圧縮比 | 12.15 |
最高出力 | 735ps以上/13500rpm |
バルブ形式 | DOHC 4バルブ |
バルブスプリング | ダブルコイルスプリング |
燃料供給方式 | PGM-FI 2インジェクター |
燃料噴射ポンプ | 電動ポンプ+ギヤポンプ |
点火方式 | CDI |
スロットル形式 | 12連バタフライ式スロットルバルブ可変吸気管長システム(第11戦目より投入) |
重量 | 154kg |