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サーティースが取り持った縁

1967/Honda RA300(ホンダRA300[4輪/レーサー])

待望の2勝目を献上した“ホンドーラ”英国との共同開発が奏功し総合力アップ

Text/Akihiko Ouchi  Photos/HidenobuTanaka, Honda

1967/Honda RA300(ホンダRA300[4輪/レーサー])

1967年F1世界選手権イタリアGP出場車 No.7 ジョン・サーティース

サスアームのクロムメッキ仕上げはこの時代のトレンド。表面処理を施すと強度が上がると考えられていた。

サスアームのクロムメッキ仕上げはこの時代のトレンド。表面処理を施すと強度が上がると考えられていた。

実際、小改良の積み重ねでなんとかRA273を走らせていたHondaにとってロータス49の登場は大きな衝撃で、その危機感によって新型車の開発が急遽始められていた。そのマシンこそがRA300で、デビュー戦から6週間をさかのぼると、ロータス49が2勝目を挙げたイギリスGPの前後から開発が始まったことになる。
シャシー開発を担当したのはローラ・カーズ。この年のHondaの契約ドライバーである64年王者ジョン・サーティース(前年ワークスローラT70で初代Can-Amチャンピオンを獲得)を介してのコンタクトだった。
エリック・ブロードレイ率いるローラ・カーズ(創設58年)はこの当時アルミモノコックに関するノウハウが最も豊富なシャシーコンストラクターであり、フォードGTの開発も手がけていた。後年グループCカーやGT1マシンの設計で名を馳せるトニー・サウスゲートも設計チームに在籍していた。

ちなみにRA300が「RA274」とならなかった理由は純内製だった200番台とローラ介在車を区別するためで、監督に復帰した中村良夫が命名したという。ホンダとローラの名をもじって“ホンドーラ”という呼び名を与えたのはドイツの外誌記者。純血車でないことを揶揄してのものだが、Hondaが「とにかく自前で勝つ」から「外の力を借りてでも勝つ」へとシフトしたことの象徴とも言え、好意的な解釈もできるはずだ。

車体径はやや太めだが、その分コクピットスペースは広め。着座位置はやや左にオフセットしている。なおコクピット内にも外にもローラの名を示すものはひとつもない。

車体径はやや太めだが、その分コクピットスペースは広め。着座位置はやや左にオフセットしている。なおコクピット内にも外にもローラの名を示すものはひとつもない。

約6週間といわれる短期間で作り上げられたRA300は、インディカー用T90のデザインをベースに製作したモノコックに、67年型RA273で使われていた改良タイプのエンジン「RA273E」とギヤボックスを搭載した。このV型12気筒エンジンは420ps/11500rpmという性能を発揮。当時ローラはモノコック製作技術では先端を走っていたこともあり、RA300はRA273に対して全体で約70kg軽量化に成功している。なおローラは自社の開発リストにこの車体を「T130」として記載するなど、このことからも改良作業への関与の深さが窺える。

そうした突貫工事の末、イタリアGPに間に合ったRA300。サーティースが操るRA300はデビュー戦のイタリアでHondaにF1通算2勝目をもたらしたわけだが、ライバルたちをねじ伏せての優勝というわけではなかった。
このレースで主導権を握ったのはジム・クラークのロータス49だったが、最終ラップでガス欠気味となりトップの座から後退。代わって先頭に立ったジャック・ブラバム(ブラバム・レプコ)を、背後につけたサーティースが隙を突いてかわし、エンジンパワーを活かした最後のひと伸びで0.2秒差のチェッカーを受けるという劇的な幕切れを演出していた。

こうしてRA300はHondaに2勝目をもたらしたが、急造したシャシーは心配されたとおり剛性不足で、セッティングには難があったと言われる。それでもほぼシェイクダウンに近い状態で臨んだデビュー戦で勝ったのだから、当時のHondaのエンジンがいかに群を抜いた性能を発揮していたかが知れる。なお製作されたRA300は1台のみで、現存するのは優勝車そのものである。

その後RA300は翌68年の開幕戦南アフリカGPまで使われたが就役レースはわずかに4戦。67年の最終戦メキシコGPでは4位に入り、戦績的には悪くなかったが、あくまで次作の“本命”RA301への橋渡し役である点は否めなかった。しかしRA301はついぞ勝てないまま、姿を消している。
急場をしのぐ仕様で優勝、満を持した仕様では2位。勝敗のあやは、いつの時代も皮肉な結果を残していく。

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Honda RA300

1967/Honda RA300(ホンダRA300[4輪/レーサー])

1967/Honda RA300(ホンダRA300[4輪/レーサー])

SPEC

シャシー

型番 Honda RA300
フレーム形式 フルモノコック構造+チューブラー・サブフレーム
ホイールベース 2454mm
トレッド(前/後) 1464/1442mm
全長×全高 3955×845mm
最低地上高 90mm
モノコック部主材 高力アルミニウム合金板 SWG#18
丸鋲使用
サスペンション(前) 溶接ロッキングアーム+Aアーム
サスペンション(後) Iアーム+逆Aアーム
スプリング/ダンパー(前) インボード式ダブルラジアスアーム+KONI製ダンパー
スプリング/ダンパー(後) アウトボード式+KONI製ダンパー
ホイール(前) ローラ製 軽合金鋳造
15インチφ×8インチリム
ホイール(後) ローラ製 軽合金鋳造
15インチφ×12インチリム
タイヤ(前) ファイアストン製4.75/10.30-15
タイヤ(後) ファイアストン製6.00/12.30-15
ブレーキ(前後とも) ガーリング製ARディスク+フェロード製DS11パッド
ハーフシャフト ハーディ・スパイサー製両端フックジョイント 中間ボールスプライン
ステアリング方式 ローラ製 ラック&ピニオン式
冷却配管 モノコック底部両側 ダクト内収容
燃料タンク ラバーバッグ型 FPT製200L
車両重量 590kg
(67年イタリアGP車検時610kg)

エンジン

型式 Honda RA273E
形式 水冷90°V型12気筒NA
排気量 2992cc
ボア×ストローク 78.0×52.2mm
ストローク/ボア比 0.669
圧縮比 10.5
最高出力 420hp以上/11500rpm
ピストン面積 573.4cm2
平均ピストン速度 20.0m/秒
シリンダーブロック マグネシウム合金鋳造
燃焼室形式 ペントルーフ型
バルブ方式 4バルブ
カムシャフト駆動方式・位置 ギヤトレーン式・クランクシャフト中央
バルブリフター方式 逆バケット型(シムキャップ)
バルブスプリング 二重コイルスプリング
シリンダーライナー ウエットライナー 上方挿入式 3シリンダー一体型×4
ピストン スリッパー型 2リング 全浮動ピン式
クランクシャフト 組立式 120°位相
潤滑方式 ドライサンプ式 吸込口:サンプ6カ所
オイルポンプ形式・位置 多重ギヤポンプ・エンジン前端&後端
排気管系 3→1接続×4系統
燃料系方式 低圧吸入管噴射式 ベーン型ポンプ/分配器別体 定時型(一体)
点火系方式 トランジスター点火方式 左右2系統 90°-30°不等間隔点火
出力取り出し位置・方式 クランクシャフト中央上部・平ギヤ減速/往復トーション軸
クラッチ方式 乾式多板
ギヤボックス形式/終段減速 別体型 常噛5段 ドライサンプ 専用ポンプ/クーラー装備
重量 200kg

参考資料『HONDA F-1 1964-1968(二玄社)』

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