モータースポーツ > Honda Racing Gallery > F1 第一期 > Honda RA272
RA272の課題は車重と運動性能であった。エンジンの馬力はライバルを圧倒していたが、実際にサーキットを走らせた時にはその性能を活かし切れていなかった。そこでモノコックに軽合金素材を多用して軽量化し、車重は27kg軽減した。カウルもより空力的に洗練されたものへと変更している。だがそれ以前に、エンジン本体の重量が問題だった。1万1500〜1万2000回転で最高出力を発生するエンジンの設計には、それまで2輪レースで蓄積した技術が投入されていた。しかし組み立て式クランクシャフトにオール転がり軸受けを組み合わせた構成は高回転・高出力のHonda製エンジンの特色ではあったが、もともとコンパクトな空冷2輪エンジンでは通用しても、大柄な水冷V12エンジンとしてはサイズや重量の点で課題となった。
RA272は空力的に洗練されたにもかかわらず、車重面でハンデを負い、なかなか結果を出せなかった。そのためシーズン途中でエンジンの前傾角(クランクシャフト軸に対する角度)を12.5度から倍の25度に増やしてエンジンマウント位置を100mm下げるという大改造が加えられていく。そうして登場したのが「RA272改」である。これは9月のイタリアGPから投入された仕様で、冷却性向上と低重心化による操縦性改善が改良ポイントであった。ノーズ開口部は低く改められ、フロント部分のモノコックも新設計。リヤまわりでは前述のエンジン前傾搭載でエキゾーストパイプをサイドに回す方式になり、これに伴ってリヤスペースフレームも一新された。一方でテールカウルは廃し、リヤ側面カウルの形状を変えたほか、エンジンカバーも新形状に。こうしてRA272改は最終戦メキシコまでの3戦を走り、最後の出場機会で優勝を果たすという殊勲を演じたのだった。